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覚醒

第17章 気付かぬ兆し

真実が帰宅すると、家の灯りは消えていて、誰もいなかった。

ダイニングテーブルの上にメモ書きが…。

『真実へ
 病院から緊急呼び出し。またしばらく帰れそうにありません。ゴメンね。
 お正月には帰れると思います。振り袖、着せてあげるからね。ママより。』


「…ハァ…」

真実はコートを脱ぎ、そのままソファに躰を沈めた。

暗い静寂の中、真実の中で様々な思いが摩擦する。

…父への止められない思い…。

心も躰も父を求めてしまう…。

大好きな母への醜い嫉妬心…。

父を誰にも渡したくない…。母にも…。

康太を傷付けた自分…。こんな自分を受け止めてくれなどと、虫がよすぎるのも程がある…。それなのに、まだ謝ってもいない…。

きっといつか、母も傷付けてしまうだろう…。

父は…父は、自分を女として愛してくれているのか?

まだ、父とは最後の本当の一線を越えたことが無い…。

やはり、父の心は母だけのものなのか…。

何も…分からない…。

真実の心を、何本ものジレンマの縄が容赦なく締め付ける。

…しかし真実は、周りの人をたくさん傷付けてしまっても、父に女として愛されてなくても、自分の心に嘘をつくことはできなかった。

「…どうしたらいいの…」

真実は一人、寒々とした暗い部屋で、悪魔のような自分を嘆き、聖夜を涙で過ごした。  

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