甘く、苦く
第73章 磁石 【move on now】session 5
「じゃあ翔さん、いってらっしゃい」
ちょっと不機嫌な二宮が
俺を見つめてぼそっと呟く。
まだ寒そうに、
腕をさすってる。
「……?」
玄関に突っ立ったままの俺を見て、
二宮はこてんと首を傾けて
「行かないの?」
ってまた小さく呟いた。
「…んー、」
「…?なにー、もう…」
「…あー…なんつーかさぁ…」
二宮に一歩近付き、
そっと頬に触れる。
「っ…な、なに…?」
「……んー、」
二宮の焦げ茶の瞳を見つめ、
ゆっくりと口を開く。
「…新婚さん、みたいで嬉しいんだよね…」
「っんなぁ…///」
「…この際、もー結婚すっかぁ…」
「っ…///」
顔を真っ赤にさせて、
口をパクパクさせて。
「…ふふ、このまんまでもいーけどな。
……でも俺、こんな可愛い奥さんいたら
毎日仕事頑張っちゃうけどね?」
「ぁ、やっ…あの、」
「…ふふ、プロポーズなんかじゃないから。
…するならもっとちゃんとしたいし。
…って、やべ。
もー時間だから行くわ。」
「あっ…」
するりと二宮の腕をすり抜けて、
玄関へ向かう。
そしたら、
「いってらっしゃいっ…
待ってるからっ…」
って、
ちょっと焦った声が聞こえた。