甘く、苦く
第73章 磁石 【move on now】session 5
笑いかけ、
俺は左手で柔らかい二宮の髪を撫でた。
「知ってると思うけどさ…
『来年の話をすると鬼が笑う』って
よく言うだろ?…だから…」
なにも言えず、
されるがままの二宮に俺は首を傾けて
言葉を紡いでいく。
「笑ってくれよ、な?
そんな恥ずかしがってないで、笑ってくれ。
笑いながら、俺たちふたりの
未来の話をしよう。
お前がこれまで後ろ向いてた
もったいない分を、
これからは前向いて話そう。
とりあえず、
明日のことでも。」
「明日の、こと…?」
「あぁ、そうだ。
明日のことだ。なんでもいいんだ。
たとえば、明日の朝のメニューとか、
何時に起きるかとか、そんなんでいい。
なんでもいい。
どんなにつまらない話でも、
明日があるからできる話だ。」
な?と首を傾け、
二宮を見つめる。
二宮はしばしの返答を躊躇い、
それから少し困ったように
もともと下がってる眉を
もっと下げて。
「…俺は、弱いから…
だからきっと、
翔さんに寄り掛かっちゃうよ…?」
「いーよ、そんなん。
俺も弱いし空気読めないしアホだし、
自分で言ってて傷付いて凹むけど
そこらへんは周りにフォロー期待しながら
他力本願で生きてるヤツだからさぁ?
お互い寄っかかって歩けばいいよ。」
なんでもかんでも
自分で抱え込んでしまう二宮だから、
その重荷にばかり目がいって、
自分の歩いている道の先が
見えなくなるんだろう。
俺くらい、なにも考えずに
楽ーに過ごせたらいいのに。
それでもいつの間にか
荷物は積もるが───…
一人で持って前が見えないなら、
誰かと分け合って進めばいい。
…それはもちろん、俺と。