
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
「しょ、翔くん…?
ちょっと…痛い、かも…」
「ぁ、ごめん…」
ぱっと離せば、
蒸気した頬に手が伸びて。
短いリップ音とともに、
大野の甘い吐息が漏れた。
「…じゃあ、明日も来るから…。」
「あぁ、またな。」
…今頃。
なんで今頃思い出したのか…。
椅子の軋む音。
あぁ、そうだ。
あの日もこんな夕焼けだった。
窓の外を見つめる度に、
いつも思い出す。
あんな顔させたかったわけじゃないのに。
『お互いもっといい人が
いるんだよ、きっと…』
潤んだ瞳が焼き付いて離れない。
あぁ…。
あのとき、引き止めていたら…
今でも隣にいたのかな…。
あの光景は忘れない。
忘れられるハズがない。
『死んだ───…?
ウソだろ…?』
思いたくも、なかった。
あのときは、
これがさっきまで
生きていたんだな、と思ったら
急に涙が込み上げてきて。
死んだなんて思えないくらい、
綺麗な顔だった。
今にも起きそうだったのに。
また、
『翔ちゃん』
って、
あの笑顔で呼ばれたかったのに──…
