
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
「…?いないの?」
黙る俺を心配してか、
顔を覗き込んできた。
…あぁ。
こんなひとつひとつの動作も、
アイツと似てるなんて。
「いたよ。…いたけど…」
「ケンカでもしちゃったの?」
「…まぁ、そんなところかな。」
ケンカ…なのか?あれは。
『翔ちゃんのこと、
俺はばっかりが好きみたいじゃん…。』
脳裏にフラッシュバックした光景。
泣いてるアイツ。
……あの時俺は…
アイツになにをしてやれた…?
手を差し伸べれば、
抱き寄せてやれば…。
『ごめん…』
俺はなぜ、
あんなことを言った…?
「そっかぁ、じゃあ早く仲直り
できたらいいね!」
にっと微笑まれ、
また、アイツの顔が過る。
あぁ…
具合が悪くなってきた…
「あ、もうこんな時間じゃんっ!
今日はもう帰るね!
犬の散歩────…」
「大野っ…」
「わっ…」
怖い。
いつか俺から、
大野が離れていくんじゃないかって。
