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甘く、苦く

第80章 にのあい【愛 think so.】

二宮side



俺は今、とっても不愉快だ。

別に覚悟はしていたけど、
やっぱり見てしまうと脳が受け付けない。


…俺の知らない顔が幾つもあって、
俺の知らない女の名前を囁く声が響く。

恋人として───
さすがに、演技でも妬く。

俺の知らないまーくんがたくさんいて、
俺はまーくんのこと全然知らないんだなって
切なくなっちゃうから。

…それに、一番不愉快なことは、
俺の知っている顔も晒されていくこと。


俺だけの『特別』だと思っていたのに、
それが地上波で晒されるんだから、
もう、『特別』じゃなくなってしまった。


薄い箱の中で見つめ合う
まーくんと女の人を見ていられなくて
電源を切って乱暴にリモコンを投げた。


────早く、帰ってこないかな。

正直、寂しいし泣きたくもなる。
だけど、これは仕事だし…。
まーくんが頑張ってる大好きな仕事だし…。

応援、しなくちゃ。
我慢、しなくちゃ。

困らせたら、ダメ。
マイナス思考だって、ダメ。






「ただいまー」


明るい声が思考しかけた脳内に響いた。

「まーく……っ、」

戻ってきた意識を自覚して、
まーくんへと向かおうとした。

…だけど、テレビ画面に映る
自分の顔が今にも泣きそうで、辛そうで。


「っっ…」


そんな顔を見てしまったから、
余計に足がすくんでしまった。

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