甘く、苦く
第80章 にのあい【愛 think so.】
「ふー、疲れたぁ。
ただいまぁ、ニノ。」
無垢すぎるその笑顔に、
めんどくさくなっている俺は、
まーくんの顔を見て、素直に
「おかえり」
だなんていつもみたいに言えないよ。
「ニーノー?」
だめ、ダメだよ。
そんな優しい声で、
俺の名前を呼ばないでよ。
「っ…うー…」
「え…!?ニノっ…?」
困らせたくないけど、
溢れ出した声と涙は
もうどうにもならなくって。
よしよし、だなんて優しい声。
顔を上げたいけど、上げたくない。
俯いたまま、えっえと泣いていると
不意に、唇が触れた。
「…ぅえ?……んむっ…」
壊れそうなくらい
強く抱き締められたあとは、
熱いキスがふってきた。
停止しかける脳に、
甘い吐息が響いて。
まーくんの表情(かお)はわからないけど、
多分困ったような、
情けない顔をしてるんだろうな。
「んんっ、まーく、」
「もう、黙ってて。」
…っ。
予想外すぎる言葉に、
俯く顔をバッと上げたら。
いつも以上に切羽詰まった顔のまーくんが
俺を見下ろしていた。
「…も、我慢出来ないよ……。」
「っ、まーくっ…!」
ぎゅうぎゅうと抱き締められて
耳元で俺の名前を何度も呼ぶ。
「……ニノが泣いてたら、
俺だって…俺だって、悲しくなるよ…。」
……ねぇ、まーくん。
俺、すごい幸せ者みたい。