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甘く、苦く

第81章 お山【Now I'm ready.】






すれ違いが増えたのは、
いつ頃だったかな。



「……ねぇ、聞いてる?」

「…ぁ、ごめん。」

「ふふ、疲れてる?」

「あー、ちょっとね。」

「そっか、じゃあ静かにしてる。」


なんて、
こんな相手を思いやる会話、
今はもうできないよ。


「…おはよ。」


翔くんは今日、朝早かった気がする。

まだ起きてないから、
起こしてあげようかな。


…結局俺は、翔くんが好きなんだ。

昨日はちょっと呆れただけ。

俺だってだらしないとこあるし、
お互い様だよね。うん。


「翔くん、おはよう。」


布団に包まって、
もぞもぞ動く翔くん。


「ん〜…」


ごろん、と寝返りをうって見えた翔くんの顔。

前髪に変な寝癖がついてて、
髪の毛を乾かさないで寝たことがわかる。


「翔くん、朝だよ。」

「…うん… 」

「起きよ?」

「…うぅ〜ん……」


ちっちゃい子みたい。なんて
笑っていたら翔くんと目が合った。


「あ、起きたね。」


俺が微笑みかけたら、

「おはよ…」

って抜けた声を出した。



…なんだ。

やっぱり最近疲れてるだけなんだ。



「…こっちきて…?」

「ぅわわっ…」


腕を引っ張られて、
布団の中に引き込まれる。

びっくりして翔くんを見上げたら、
キスされた。


「んんっ…」


甘い甘いキス。

ひさしぶりのキスで、
かなり嬉しい。


「…智くん…」

「…ん?」

「やっぱ旅行行こ?」


くしゃり、と笑い俺を抱き締めた。


「…うん。」

「…ごめん、なんか…」


気まずい雰囲気の中、
翔くんの心音だけがすごいよくわかって。


「旅行の日、どうしても開けたくて
仕事めっちゃ頑張ってて…
帰り遅くなってごめん。
あと一緒に帰れなくなってごめん。
あと────…」

「も、もういいよっ。
あんまり、気にしてなかった、
……わけじゃないけど…」


続く謝罪に、耐え切れなくなった。

翔くんが頑張ってるの、
充分知ってたよ。

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