甘く、苦く
第85章 大宮【スフレ】
ふわふわとした意識の中、
俺に向かって微笑みかける智がいる。
…夢ならいっそ、
覚めなければいいのに。
「…ぇ?」
覚めなければいい、なんて、
どうして思ったんだろうか。
…好き?
好きって、なんだ。
ひとを好きになることを、
忘れてしまった。
「……。」
まさか、俺は…
俺、は…
「…智のことが…好き……?」
そう口にした瞬間、
意識が舞い戻ってきた。
…俺は、なんてことを…。
なんて失態を…。
「…違う……。」
なら、どうして────?
俺自身が認めたくなだけ?
「…好き、……好き?」
忘れかけていた気持ちが、
また俺の中で燃え上がる。
ゆらゆらと揺れていた心は、
今、しっかりと身に覚えのあるものになる。
背中に寒気が走るのと同時に、
胸のあたりにうっすらと
熱がこもり出すのを感じていた。
…ひょっとして。
もしかして自分は。
「……ありえ、ない…」
─────……ぽっ、と。
顔に火が上る感覚に。
「あぁぁぁあああっもおおおぉぉ!!」
叫んで、この気持ちを
紛らわそうとしていた。