甘く、苦く
第85章 大宮【スフレ】
「うぇ…さむ…」
ずずっと鼻水をすすってから、
腕をさする。
いつも通りの時間の電車。
ぎゅうぎゅうに押し潰されて
やっとのことで解放される。
ぐーっと背伸びをしたいけれど、
会社に着くまでは我慢だ。
「…?」
カバンの中の携帯が震えて
何かと思って立ち止まれば。
画面に表示されたのは
“和也”の文字。
…もしかして…
ちょっと自惚れてみた。
「…ふふ」
相変わらず、ヘタクソだ。
ふっと自分の頬が緩むのを感じて、
慌てて引き締めた。
ぎゅっと携帯を握り締めて、
沸き上がってくるものを
必死に抑えようとした。
…さ、頑張りますか。
今日は残業なんてしてらんないや。
…ふふ。
『俺がメールする理由を察しろ』
ー終わりー