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甘く、苦く

第88章 大宮【In Fact.】


大野side


普段本音なんて吐かない彼だから。

今こうしている間も。

「ぅ、あっ、あ、あっ…」

「カズ、すきだっ…」

俺がいくら好きだと口で伝えても、
嬉しそうに目を細めるだけで
カズの口からは何も返ってこない。

俺の肩に唇を寄せて、
口付けてくるカズ。

それが可愛らしくて、
より一層守りたくなる。


「好きだ…」


何度、カズに向かって言ったのか。

今日この夜だって、
もう数十回言った気がする。


・・・


「なぁ…」

カズの柔らかい髪の毛を梳く。

心地よさそうに笑うだけで、
返答はない。

「お前さぁ、関心ないの?」

「…何に対して?」

「俺に対して」

「…なんで?」


“どうしてお前のことを?”
とでも思っているんだろうか。

俺が困ったような顔をしていたのか

「俺のこと、嫌いになった?」

と潤んだ瞳を向けてきた。


俺がそれ弱いって知っててやるんだろうな。


「そんなんじゃないよ。
何とかなく」

「ふうん…
でも俺は、智のこと好きだよ?」

「…ならいいんだけどさ」


時々

すごく不安になるんだ。


いつか、この部屋からカズが
消えるんじゃないかって。

ふと、
テーブルの上に雑に置かれたスペアキーが
浮かんでしまった。

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