甘く、苦く
第88章 大宮【In Fact.】
好きだよ。とカズから言われるのは
よくあることだ。
だけども
最近、何かおかしいんだ。
話していても、
食事をしていても、
セックスをしていても。
カズの瞳には俺が映っていない気がして。
どこか上の空で、
俺に興味を示さない。
今日だって、誘ったのは俺だ。
前までは、カズからだったのに。
不満と言ったら、そうかもしれない。
でも
問題はそこじゃない。
“体だけの関係”
そんな遠回しの言葉で誤魔化してきた。
そんなの…甘すぎるってことは承知してる。
付き合ってないんだ。俺たちは。
だから、
カズには本命がいるのかもしれないし、
俺以外にも関係を持っているかもしれない。
俺の下で啼いているカズは、
まやかしなのかもしれない。
“女は興味無い”
そう言って笑っていたカズは、
もう俺を見ていないかもしれない。
それでも
俺はカズを離したくないと思った。
「なぁ…」
“俺以外にもそんな顔見せてんの?”
「…ぅん?」
そんな言葉を、呑み込んで。
「さみいから、もう寝よう」
「…うん」
ふんわりと崩れそうな笑顔を作って、
マグカップを流しに持っていくカズ。
「…」
だめだ。
揺るがないって決めたのに。
いつかは終わりが来る関係だって
わかっているのに。