甘く、苦く
第89章 翔潤【純粋に】
櫻井side
「お先に失礼します」
近頃、同期のコイツが、幸せそうだ。
「残業なしかよ」
「待ってる人がいるんで」
俺の嫌味をサラリと交わし、
余裕のある笑みを浮かべた。
…やっぱり。
変わったな、二宮は。
「また飲もうな」
「月末以外は無理だけどな」
「いいじゃん。つれねえなぁ」
「それ口癖?」
くはは、と特徴的な笑い方をしてから、
そろそろ帰るわ、とコートを引っ掴んだ。
その後ろ姿を見つめながら、
ふう、と溜め息。
最近。
「櫻井さん、お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ様」
大切な仕事を任されるようになった。
上司からの評判は右肩上がり。
給料は一定。
って、悩みはそんなことじゃない。
仕事が忙しくなって、
定時退社ができなくなり。
「はぁ…」
俺の帰りを待つ彼との仲は険悪だ。