
甘く、苦く
第89章 翔潤【純粋に】
「櫻井さん、コーヒーです」
「あぁ、ありがとう」
そうお礼をすれば、
女性社員は目をハートにさせて
頬を赤く染める。
…バカらしい。
またトイレでその話ばかりするんだろう。
面倒な生き物だ。
つくづく女でなくてよかったと思う。
ただ。
女は楽だと思うときもある。
脳裏に蘇る、昨夜の情事。
女みたいな声を上げているのは、
俺の方で。
男の俺は、女みたいな
受け入れる器官は持ち合わせていない。
そういうとき、
本当に女は楽だと思う。
ただの偏見だが。
・・・
「ただいま」
結局帰ったのは、十時過ぎ。
いつもより早く帰ってきたつもりだ。
終電には乗るまいと、
明日出来ることは後回しにしてきた。
「おかえりなさい、ご飯食べる?」
「そうだな」
ネクタイを緩めて、
また溜め息をついた。
彼にバレないように。
