
甘く、苦く
第89章 翔潤【純粋に】
「…ってことがあってね」
「ふうん」
つまらなさそうに翔さんは
俺の話を聞いていた。
飲んでいたコーヒーは
いつの間にかカラだ。
どうやら盛り上がっていたのは、
俺だけみたいだ。
「…なんか、ごめん」
「別にいいけど」
「でも、機嫌悪いじゃん」
「当たり前だろ」
恋人から男の話を聞くのは
気分が悪い。
そう言われて、
ちょっとムッとした。
だけど、冷静に考えたら俺だって、
翔さんが俺の知らない男の話を
楽しそうにずっとしていたら嫌だ。
退屈にもなるし、
嫌になる。
「ごめんね」
「別にいいよ」
すっかり機嫌を損ねてしまった。
気晴らしに、俺から散歩に行こうと言った。
「このさみいのに?」
口では嫌そうだけど、
顔は緩みきっている。
黒のロングコートを引っ掛けて、
携帯と財布だけポケットに突っ込んだ。
「…なあ」
「ん?」
「来週末、空いてる?」
「…空いてるに決まってるじゃん」
だって、来週末は翔さんの誕生日。
忘れるわけないじゃん。
