
甘く、苦く
第89章 翔潤【純粋に】
そのことを覚えていてくれていた
二宮先輩に、うるっときてしまった。
俺のこと、
そんなに大切に思ってくれていたんだ…。
確認お願いします、
という度に嫌な顔をされて、
気怠げな態度をとっていたけれど…。
思い返せば、
付箋がびっしりつけられていて、
所狭しとアドバイスが書かれていた。
そうか。
そうだったのか…。
俺のことを、そこまで…。
「まだ言うんですか?」
二宮先輩の冷たい声が聞こえて、
振り返った。
そこには、
睨みつけるような視線を課長に送る先輩がいた。
普段そんな顔を見せない先輩だから、
こっちも怯んでしまった。
「わ、わかった…そんなに言うなら…」
「…わかってもらえましたか。
それならよかったです」
さっきまで漂っていた殺気が、
急にふんわりとした人懐っこい雰囲気になる。
遠目から見ても、
その変化は歴然だった。
…二宮先輩は、
怒らせたら危ないかもしれない。
そう思っていたら、
先輩の顔がすぐ近くにあった。
「あっありがとうございますっ」
「礼言われるほどのことじゃないよ」
それに、と付け加えて、
そっと耳打ちをされた。
「俺も入社した当時、同じ目に遭って
同じように先輩が助けてくれたからね」
それだけ言って
残りも頑張ろうな
と、印象の良い笑顔を残して
自分のデスクへ戻っていった。
