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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】



こんな甘酸っぱい時間が
ずっと続いたら。

なんて考えていた。


行為後特有の倦怠感。

隣の翔さんも同じみたいだ。


「…潤」


汗ばんだ手が触れた。


「ん?」


敢えて視線を合わせず、
返事だけした。

翔さんの指が動いたと思えば、
髪の毛から微かにシャンプーの匂いがした。

その匂いに惑わされて、
また、深く甘く、堕ちていくんだ。


「今日は、ほんとにほんとにありがとう…」


震えた声が聞こえた。

それでも、視線は合わせられずにいた。


「…うん」


急に恥ずかしくなって、
自分から絡ませていた指を解いた。

寂しそうに翔さんが身を擦り寄せてくる。


甘い甘い、この人の香り。

きっと、ずっと、これからも。


「好きだよ、翔さん。
誕生日、おめでとう」


この人に翻弄され続けて、
俺は過ごしていくんだ。

目にいっぱい涙を溜めて、
俺を見上げた。

その涙を指で掬いとってから、
優しく口付けをする。


「もう少し、夜更かししようか」


そういえば、
躊躇う素振りを見せたあと、
首をゆっくり縦に振った。



ー終わりー

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