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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】


不機嫌な翔さんに対して、
どう対応するのがいいだろう。

ずっと考えていたけれど、
結局わからないまま。


「…翔さん?」


さっきからずっと、不機嫌だ。

ぽってりとした唇をひたすら弄る横顔。

それさえも愛おしいと
思ってしまう俺は末期だろうか。


「翔さん、こっちみて」


腰を引き寄せてから、
優しく抱きしめた。

ふわり、と柔軟剤の柔らかい匂いがした。


「…やだ」


言葉は嫌みたいだけど、
頬が緩んでいるのはバレバレだ。

この至近距離で耐えるのは
かなりキツい。


「ん…」


勢いだけで雑に重ねた唇。

軽い痛みが走ったと思えば、
翔さんの唇は傷付いていた。


「皮、剥けてる…」

「…知らない」


そっと唇に触れて、
優しく撫でた。


「ダメだよ、触ったら」

「……」


黙ったまま、目を伏せて、
俺の服を引っ張る。

…今日はもう、お互い止まれない。

きっと、我慢出来ない。


「誕生日、おめでとう。
これからもずっと一緒にいよう?」

「……うん」


浮かない顔した翔さんだったけど、
いつの間にか照れたように笑っていた。

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