
甘く、苦く
第90章 磁石【色彩】
二宮side
“そんな見んなよ”
彼はいつもそう言う。
「だって、好きなんだもん」
お湯を沸かす音。
みかんの甘酸っぱい匂い。
窓から差し込む日向。
「やめろよぉ」
嬉しそうに両手で顔を覆って俯く彼。
そんな姿も愛おしくて、堪らなくて。
一瞬一秒も見逃したくないから、
その姿を眺めていた。
「髪の毛、染めたんだね」
「ん、まあ」
「…もう少しで出国かぁ」
言葉にした瞬間、
寂しさが込み上げてきた。
「ねえ翔さん」
「どうした?」
明るくなった翔さんの髪の毛に触れ、
微笑みかけた。
「この色、好き」
「…ありがとう」
照れたように目を伏せて、
俺に向かって微笑む。
あたたかい笑顔と一緒に赤らむ頬。
「ねえ、翔さん」
「んだよ笑」
「幸せ」
「……ん、」
俺を見つめる彼の瞳は、
いつも水晶のように麗しくて、
思わず魅入ってしまうんだ。
