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甘く、苦く

第90章 磁石【色彩】


何日も離れるなんて考えられないけど、
仕方ないこと。


「んじゃあ、行ってくるわ」

「…うん」

「しけた面すんなよ」

「……うん」


翔さんとの最後の夜は、
ただひたすら甘かった。

きっと、向こうに行ったら
忙しくて連絡なんて取れない。


「無理しないでね、死んじゃやだよ」

「そんなこと言うなよー」

「…うん」


翔さんの傍らにある
ボストンバッグを見つめ、
目が潤んできた。


「…泣くなって」

「やだもん…」


我儘ばっかで、ごめんね。

でも今だけ、許して。


「ごめん、そろそろ…」

「…うん」


そっと体を離して、
翔さんを見た。

かっこいい、俺だけの恋人。

俺の大好きな人。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、いってらっしゃい」


最後は、笑いあってさよなら。


・・・


「っあ、また出てる…」


一時帰国したあとも、
すぐに行ってしまった翔さん。

二人で過ごす時間は、
ほんのひと握りもなかったけど。

それでも、
翔さんの顔を見れただけで満足だ。


ふいに、携帯がメールを
受信したことを報せてくれる。


『翔ちゃん出てるね』


相葉さんからだ。

すぐに既読を付けた。

けれど、
目の前の翔さんが喋り始めたから
携帯の電源を落とした。

だって大好きな彼がいるから。


ー終わりー

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