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甘く、苦く

第50章 お山【君のためにできること】

櫻井side



最初会ったときは、
なんか…ふわふわしてそうだな
くらいしか思ってなかった。

親密な関係に
陥るとは思ってなかったから。


「櫻井くん…だよね?
これからよろしくね~」


そう言って俺の手を握る
ふわふわしてるこの人。


でも…悪い人ではなさそう。

ほんわかしてるけど、
とにかく優しい。

で、周りをよく見てる。



「にのー、重いー…。」

「うるさいです。」



にのと仲良くなって、
よく絡んでいる。


目が合えば、
微笑んでくれる。


…俺は視線逸らしちゃうけど、
この人はずーっと微笑んでる。


「翔ちゃんって…
呼んでいいー?」

「…別にいいけど。」

「何読んでるの?」

「新聞…。」

「わぉ、大人だねぇ。」


最近やたらと
ベタベタしてくる。

別に……嫌だとは思わない。


アイドルやりながら
大学も行って、
俺のストレスはピーク。


放っておいてほしかった。

……だけど、この人と関わる分には
全然よくて。

イライラなんてしなかった。

むしろ…和んでた。
癒されていた気がする。



「…あ、翔ちゃん…。」



初めてこの人の涙を見たとき、
どうしようもなく抱き締めたかった。

あ、俺、この人のこと
好きなんだなって
実感した瞬間でもあって。



辛そうで、苦しそうで、
俺の手でどうにかしたかった。

…けど、あのときの俺には
そんなスキルはなくて。


『ドンマイ。次頑張ろ。』


って、それしか言えなくて。

目を見て言えなかったこと。

肩をぽんっと叩いただけ。


「…うん。」


俺ごときにそんなこと言われたとき、
あの人はなんて思ったんだろう…。

無理して笑っているって
わかっていても、
何も言えなくて。


「翔ちゃん……。」


って消え入りそうな声さえも
届かないフリをして。

こんな俺、呪ってくれ。
嫌いになってくれ。


にのと仲良くしてると
なんかわかんないけど
何で俺じゃないんだろって
一人で勝手にイライラして。


当たり前だ。

今までしたことが全部
返ってくるんだから。

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