甘く、苦く
第53章 磁石【move on now】session 3
考えたくなかった。
なんでこうなったんだろうって。
きっかけは、些細なことだった。
二宮が俺のスーツを掛けてたら、
はらりと落ちた一枚の名刺。
風俗の、やつ。
いつか雅紀から貰って、
そのまんまにしておいたもの。
それを見つけた二宮が
俺を質問攻めにした挙げ句、
家から出ていった。
…どうしよう。
ほんっと、俺ってバカだなぁ。
さっさと捨てちまえばよかったのに。
「…はぁ」
今日は休日だから、
どっか行こうねって
前々から話してたのに。
…なのに、
こんなことになった。
俺のせいだけどさ、
二宮にもわかって欲しい。
俺だって男だ。
出さなきゃ溜まる。
二宮だってそれは同じだろ?
反抗期、思春期なんだから。
「あー。くっそだりぃ…」
ソファーに座り、
時計をただ見つめる。
二宮と最後にシたのは、
初めてシたあのときだけ。
一人でもシてないんだからな?
二宮は全然表に出さないから
なに考えてるかわからない。
お互い、なんだか微妙な歳だから、
好きとか、愛してるも
あんまり言えなくて。
二宮を我慢させてるのは
わかってるけれど。
今の俺にはそんなことまで
考える余裕なんてなかった。
「…で、翔ちゃんは
ここに来てるのね。
ほんっと、夫婦喧嘩はやめてよー。
毎回俺んち来てさぁ。」
「ごめん雅紀。
でも、許してくれよ。
二宮が出ていっちまったんだよ。」
「和くんがぁ?」
「…んー」
マジかぁって雅紀が言う。
うん。マジなんだよ。
どうしたらいいかわからないから、
とりあえず雅紀の家。
いつもそうだ。
付き合いが長いから、
ほぼ察してくれる。
「でも、いいなぁ。そういうの。
俺、恋人いないからさ?
幸せでしょ?」
「ん、まぁな…」
「羨ましいよ。俺は。」
「…そう?」
雅紀はいい子いないかなーなんて
携帯を触ってる。