甘く、苦く
第58章 末ズ【one step】
今思えば、
些細なことだったんだ。
仕事人間の翔さんとは違うけど、
なんか…似てきちゃって。
アリーナツアー終わったあとだから、
ゆっくりして欲しいのに。
…なのにさ……
単独の仕事が
たくさん入ってる。
もちろん、誕生日の日も。
「潤くん、だめだよ…
体調崩しちゃうよ。
ねえ、やめようよ…。」
潤くんの休みは、
お盆くらいしかなくて。
でも、その時間は二人とも
実家に帰るから…。
会えなくなるわけで。
「いいじゃん。別に。
俺が決めたことだから。」
「そうだけどさ…
でも…「なら、別にいいだろ。」
潤くんの体が心配で
言ったのに。
潤くんに、俺は怒られたみたい。
「…それに、和だって…
俺が休みの時に仕事入ってるじゃん。
8月はあんまり会えないと思うよ。
俺、映画の撮影入ってるし。」
…そうなんだよね。
キスシーンもしっかりある映画。
そんなの見慣れたけど、
嫌なんだよ。
「和、わかってよ。
俺、和しか…「もういい。」
俺より、仕事の方が大事なんでしょ。
ならいいよ。もうそれで。
「…和……」
「いいよ。もう。
お仕事頑張って。」
背を向けてそれだけ言って、
荷物を持って玄関に向かう。
…無駄に長い廊下だ。
嫌になる。
もう、自分へと嫌悪感と
潤くんへのイライラを
どこにぶつけたらいいかわかんなくて。
バタンってわざと大きく音を
立てて玄関のドアを閉めた。
…こんなんじゃ、
一緒に誕生日祝えないよ…
今更、悲しくなる。
タクシーに揺られながら、
実家へ向かう。
潤くんのことを想いながら。