甘く、苦く
第58章 末ズ【one step】
家に着いたって、
落ち着かなくて。
「和、おかえり。」
『和』
それだけで、
潤くんのことを思い出す俺は
かなり重症なんだろう。
「ただいま…
麦茶、ある?喉乾いた。」
「ふふ、おかえり。
どうする?部屋に持っていく?」
「あぁ、うん。
そうしてくれたらありがたい。」
靴を揃えながら、
母さんへの返答。
母さんは俺が今一番聞きたくない
言葉を口にした。
「そういえば…
潤くんとはどうしたの?」
母さんは、俺と潤くんのことを
知っている。
だけど、
…ウソを、ついた。
「…あぁ、すっごい順調だよ。
そりゃあ、もう…。
だって、大好きだもん。」
バレてたかもしれない。
だって、顔、引き攣ってた。
うまく笑えてなかった。
でも。
母さんは優しいから、
優しすぎるから。
「そう。ならよかった。
また今度潤くんのお母さんと
お茶に行く約束してるの。」
なんて、嬉しそうな母さんを見たら
自分への嫌悪感はまた募る。
「あ、手洗いなさいよ。」
「わかってるよ。」
適当に手を洗って、
ひさびさの自分の部屋に行く。
自分の匂いが染み付いたベッド。
大好きなゲームや漫画の山。
俺にとって、
この部屋は居心地のいい城だ。
そう、居心地のいい…