甘く、苦く
第59章 大宮【Gimmick】
目が覚めたときには
もう夕暮れで。
きっと智も、
もうすぐ帰ってくる。
日帰りの温泉旅行だと
智は言っていた。
…羨ましい。
家族と仲がいいんだなって
思ったら、
とても羨ましくて。
俺んちは、姉貴がいるけど
家をとっくに出ていて。
母さんは毎日パートで
帰ってくるのは八時。
父さんはいいとこの
サラリーマンだけど
毎日残業続きで帰るのは
いつも十一時。
…だから、どこにも
行けないし行きたいなんて
言えなかった。
悪いと思ったから。
俺のために働く
父さんと母さんの邪魔は
したくないから。
…じゃあ、智は…?
俺、智の人生邪魔してない…?
ほんとに言い切れる?
邪魔してないって。
…言えないよな。
貴重な智の人生を、
一分一秒を
俺なんかのために
使ってくれてる。
…俺なんかのために…
俺、ほんと智に
惚れちゃってんだ。
…でもだめだ。
…もうやめにしよう。
こんな関係。