甘く、苦く
第64章 にのあい【sunshine】
ウザったそうに
髪の毛をかきあげて
溜め息をつく。
「風呂入るから、
そこどいてくんね?」
「…やだ、」
「あ?」
「どかない。」
パンイチでなに言ってんだって
感じだけどさ…
「…ちっ」
めんどくせぇヤツ、
なんて言ってきた。
部屋は共同だ。
…換気するの忘れてた。
彼女の…元彼女のキツい香水の匂いが
多分まだ残ってる。
ていうか、絶対残ってる
「…あに、」
「くせぇ、んだよ。この部屋。」
「換気するの忘れてただけ、」
「あっそ、」
彼女できたんだな、なんて
兄貴が寂しそうに言う。
「別れたけど、」
「は?」
「もう別れたよ、」
「…あそ、」
そしたら、ヘッドホンを
つけて、音楽を聴き始めた。
…母さんたちの前では、
あんなに反抗するのにさ、
俺の前じゃこんなんなんだよ?
…どーこが不良なんだか。
俺は兄貴の黒髪の方が
好きだったのにさ。
明るくする必要なんて
なかったのに。
「…おい、」
「なに?」
「腹減った」
「…はいはい」
ここで反抗すると
面倒なことになるのは
目に見えているから。
お湯を入れたカップ麺を
持ってきた。
「さんきゅ、」
…こんな一言でも、
俺は嬉しいのに。
なんとなく、の時間が
特別な時間になるのに。
…兄貴は気付いてくれない。