(仮)執事物語
第10章 VACANCE DE L'AMOUR〔葛城〕
とある昼下がり──
「お嬢様、水着はこちらのどれをお持ちになりますか?」
ウォークイン・クローゼットから水着を数点携えて、葛城は主の元へと戻ると、時間をかけて吟味したそれを掲げて見せながら尋ねた。
彼が手にしているのは、カットが際どいセパレートタイプの水着。カウチに寝そべって、資料に目を通していた葵は、視線を葛城の方へと向けると、その水着を見て驚いた様に目を見開いた。
「ちょっ! 私はワンピースタイプをお願いした筈だけど!?」
手に持っていた資料をテーブルの上に投げ出すと、ガバッと起き上り葛城に詰め寄る葵。勢いのついた紙片は、テーブルの上を滑り、床へと散らばった。
「何を仰るのですか。葵お嬢様はスタイルがよろしいのですから、これくらいが丁度良いかと存じますが……」
葛城は手にしていた水着を小脇に挟み書類を拾いながら、葵に向かって満面の笑みを見せそう言った。
その笑顔に苛ついた葵は、引ったくる様に水着を手に取ると、握り締めたそれを葛城の眼前に突き付ける。そして怒りに肩を震わせながらこう言った。
「葛城はコレを来た私を他の男に見られてもいいわけ?」
葛城は葵の剣幕に押され、一歩後ずさりながら、はたと気付いた。確かに言われてみれば、自分の選んだ水着は露出も多く、スタイルの良い葵は、きっと沢山の男達の目を惹きつける事になるだろう。