(仮)執事物語
第11章 この先もずっと…〔黒崎〕
「マコ兄、勉強教えてー?」
そう言いながら、勝手知ったる部屋の扉を開けて中へと入る。ここは、東乃宮邸の敷地の一角にある、独身者専用の寮である。マコ兄は、お嬢様の執事見習いとなった為、家族で住んでいた社宅を出て、現在は寮で生活をしている。
私はまだ学生の身分で、親元(社宅)で暮らしているが、高校を卒業してお邸で働く事になったら、この寮に住むつもりだ。マコ兄だけでなく、リュウ兄や他の仲の良い幼馴染達もここに住んでいるし。
私は仕事から上がったばかりで着替えの最中のマコ兄が、口をパクパクさせているのを無視して、部屋に上り込みテーブルに着いて参考書とノートを広げる。すると、脱いだシャツで胸元を隠し、顔を真っ赤にしてマコ兄が抗議の声を上げた。
「ななっ! お、俺は着替えの最中だぞ!? 何で勝手に入って来るんだ!!」
マコ兄のそんな姿を見て女の子じゃないんだからと、私は心の中で思ったが、ニッコリと笑って、「鍵を掛けていないのが悪い」と言ってやる。
「それに見慣れてるもーん」
異性であろうが、同性であろうが幼馴染の身体なんて、子供の頃から見慣れている。大した問題じゃない。私は、そう思っていた。この日までは。
すっかり忘れていた。私達はもう子供じゃあないって事を。