(仮)執事物語
第14章 【特別編】ココロとカラダ〔高月〕
「斗夢。彼がお前の居る別邸に新しく入る執事だ」
黒い革張りのソファにゆったりと身体を預けている父が、そう言って後ろに控えていた男に視線を送ると、その男は一歩前へ歩み出て頭を下げた。
「初めまして。斗夢様。高月と申します。誠心誠意お仕え致しますので、何卒宜しくお願い致します」
隙がなく品のある所作。その身のこなしだけで彼がどれだけ優秀な男であるかが窺える。邪魔にならない様、後ろへ流し整えられた清潔感のある髪型。すっとした鼻に、切れ長の目は長い睫毛に縁取られている。細身のスーツを着こなす彼は、恐らく普通の女の子だったら、胸をときめかせる類の男だ。
しかし、僕は彼の挨拶を無視し、父に尋ねる。新しい執事なんて、聞いていない。それに僕には赤の他人には言えない秘密がある。だから、僕が幼い頃からそれを知る者しか傍に置きたくなかった。
「父さん、僕の執事には城本が居るし、彼が必要とは思えませんが?」
「それだがね。城本本人から、『いい年なので引退したい』と申し出があったのだよ」
「そんな……」
城本は確かに高齢ではある。僕との年の差は孫と祖父くらいかけ離れてはいるが、父と同年代と言っても過言ではないくらい、実際の年齢よりも若く見えるし、兎に角チャーミングな男なのである。そして僕が"僕"でいられるのは、僕の秘密を知っている城本のお陰なのだ。