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(仮)執事物語

第3章 極光の下で〔杜若〕


「莉玖、大好き!」

気持ちが抑えられなくなった私は、そう言って彼に抱き付く。莉玖は吃驚したけれど、周りをキョロキョロと見回した後、照れ臭そうに蟀谷に口付けてくれた。

愛の言葉を囁いてくれる事は少ない彼だけれど、こうして態度で示してくれるから、私は安心出来るのだ。

私達はお土産に『シリカ泥パック』を幾つかと、施設オリジナルのスキンケア商品等を買い求めた後、ホテルの送迎バスに乗り込み、ホテルへと戻る。

そして、迎えてくれたフロントのスタッフに何時頃にオーロラが見られるのかを確認し、それまで部屋でゆっくりする事にした。

私達が滞在する事になったホテルは、簡素だが清潔感があって、スタッフもとても親切で居心地の良いホテルだ。

窓から外を見れば、周りには本当に何もない。オーロラは明るい場所では見えづらいから、都市部から離れないと、ハッキリとしたオーロラを観測する事が出来ない。

ここは正にオーロラを見る為に建てられたホテルと言っても過言では無い気がする。

オーロラが現れる時間まで、何をしようかと莉玖と話そうと振り返って見ると、彼はベッドの上で寝息を立てていた。

私は莉玖を起こさない様に、そっとベッドに乗ると彼の隣に横たわって、その寝顔を見つめる。

ちょっと吊り上がった目尻は、怖い印象を与えるけれど、彼が馬を見る時の目は本当に優しい。

時々、馬達が羨ましいくらいだ。白河さんに言わせると、私を見る時の目も同じ様に優しいらしいのだけれど。

白河さんは、莉玖の幼馴染で邸で働いているヴァレットの一人だ。年が一番近いせいか、莉玖と一番仲が良く、莉玖のちょっとした変化にも気付くのは彼だ。

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