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(仮)執事物語

第3章 極光の下で〔杜若〕


「………る。……りる」

私を呼ぶ優しい声に、眠りの淵から呼び戻される。温かい唇が、私の額や瞼に柔らかく触れる感触。

これは……莉玖?

私がゆっくり目を開けると、目の前には愛しい人の顔。

ああ、やっぱり莉玖だ。

目覚めた時に、好きな人の顔が目の前にあるのが嬉しくて、私は彼の胸に甘える様に擦り寄った。

すると私の背に手を回し、優しく腕の中へ迎え入れてくれる莉玖。

「りる……可愛い……」

そう呟いて、彼が私の額に口付けを落とした。

「起きよ……。オーロラを見る前に、夕飯喰っておこう?」

そう言うと彼は起き上り、私の身も起こす。私は彼に促されるままに起き上がると、厚手のカーディガンを羽織り、莉玖とホテル内のレストランへと向かった。

アットホームなこのホテルでは、レストランやバーにドレスコードはない。カジュアルな恰好でディナーを食べるのは、初めての経験だった。

レストランには、家族連れやカップル等の他の滞在者達が、数組居るだけ。窓が大きく取られていて、ここからでもオーロラが見えそうだ。

私達は美味しい料理に舌鼓を打ち、食事を楽しんだ。

「そろそろ出る時間かなぁ?」

私は時計を確認する。時計は19時を回っていた。フロント・スタッフに聞いたところ、アイスランドでは19時~23時くらいの間が一番活発な時間帯なのだそうだ。

私達は食事を終えると、ホテルの中心部にある展望室へと行ってみようかと話した。この部屋は、四方の壁に大きな窓が取ってあり、建物の中からオーロラを鑑賞する事が出来るのだ。

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