(仮)執事物語
第4章 冬の蛍〔黒崎〕
黒崎さんは困った顔をしていた。
それは恋人であり、彼が仕えるお嬢様である私の我侭のせいである事は、私にだってよ~く分かっている。
毎年、クリスマスにはお祖父様のお仕事関係の方々をお招きしてのパーティが邸で執り行われる。私も勿論、それには顔を出さなければいけない事になっているのだけれど……。
だけどね。
クリスマスよ?
日本では、恋人達が肩を寄せ合い、愛を語らう日なのよ?
そんな日に、何故、恋人が居る私がデートも出来ずに接待をしなければならないの!?
それが我侭である事は、私にだって分かっているのだけれど。
私、多分黒崎さんを困らせたいだけなんだ。
だって、彼の困った顔ってキュンキュンするんだもの。
お兄さんみたいに私を包んでくれる優しい黒崎さん。
難なく仕事をこなし、皆の信頼も厚い、頼り甲斐のある執事。
だけどちょっぴりヘタレ。
私の事が好きなクセに、私を気遣って手も出してくれない。
優し過ぎるのも問題だわ。
だから私はクリスマスに託けて、黒崎さんと結ばれたいって思っているのに。
「執事の仕事が年中無休なのも、朝から夜中までなのも、一緒に暮らしているのだから分かっているのだけれど、少しくらい良いじゃない!!お兄ちゃんの分からず屋!!」
そう言って私はツンと顔を背けると、困った顔の黒崎さんが出来上がる。
「すみません、恵里奈お嬢様。お嬢様もご存知の通り、その日はパーティが……」
そんな事は分かっているの。私は唯、貴方のその顔が見たいだけ。
吾ながら屈折しているとは思うのだけれど、私の為に心の中で葛藤してくれている姿を見るのが好きなの。