
(仮)執事物語
第4章 冬の蛍〔黒崎〕
チェック・インを済ませて部屋に入ると、居間にはクリスマスツリーが飾られており、ウェルカムシャンパンとケーキが用意されていた。
黒崎さんは、スタスタと奥へと歩いて行くと、窓辺に立ち振り返る。
「恵里奈ちゃん?どうしたの?早くお出でよ」
そう言ってニッコリと笑って手招きする黒崎さん。
彼が私を『恵里奈ちゃん』と呼ぶ時。
それは彼がプライベートの時間に入ったと言う事だ。
ひょっとして…。
私の我侭に応えてくれたの?
忙しいのに。
そう思うと胸がいっぱいになり、私は彼に駆け寄ると、その広い胸の中へ飛び込んだ。
「お兄ちゃん……。有難う…」
彼の背に手を回してギュッと抱き付くと、彼も私を包む様に抱き締めてくれる。
「クリスマスも、もう直ぐ終わってしまうけど…。何とか二人で過ごせて良かったよ」
そう言うと黒崎さんは、私の身体を離して顔を覗き込んで来る。
「あれ?泣いてるの…?ど…どうしたの?」
私の目に浮かんだ涙を見て、動揺する黒崎さん。
「ゴメン…。もっと他のところが良かった?」
そう言ってオロオロし始める。
「もう!違うわ!嬉しくて…。幸せ過ぎて…胸がいっぱいなのっ!!」
私はそう言うと黒崎さんにもう一度抱き付く。
もう。分かってよ。
でも、私も知らなかったの。
幸せだと涙が溢れてくるなんて。
「何で……? 何でそんなに優しいの? 私……いつも我侭ばかり言っているのに……」
私が黒崎さんの胸に顔を埋めながら、そう尋ねると彼は小さく笑って、私の頭を優しく撫でた。
