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(仮)執事物語

第4章 冬の蛍〔黒崎〕


ロートマン氏を空港までお送りし、再びヘリコプターへと乗り込む。

操縦桿を握るのは、邸の運転手である黒崎さんの父親。

彼は乗り物に関する色々な資格を持っているのだ。

私と黒崎さんが後部座席に落ち着くと、ヘリがふわっと浮上した。

プロペラの旋回する音が煩い為、ヘッドセットを装着する。

これがないと、会話も出来ない。

だけれど、会話を聞かれるのは、少し恥ずかしい気がして、お互いに無言だった。

シートに無造作に投げ出した手に黒崎さんの手が重なると、彼は指を絡めるようにして私の手を握る。

その手の温もりを感じると、自然に笑みが零れ、嬉しくて彼の手をギュッと握り返した。

暫く無言で私達は空の散歩を楽しむ。

眼下に広がる東京の夜景。

クリスマスと言う事もあり、あちらこちらでライトアップされた建物が瞬く様子に、思わず溜息が零れた。

ヘリコプターはスカイツリーや東京タワーの周りを旋回し、あるホテルの屋上へと、そっと着陸する。

「恵里奈お嬢様、着きましたよ?」

ヘッドセットから操縦していた黒崎さんの声が聞こえる。

「え?」

私が驚いて、操縦席の方を見ると彼は笑って振り返るとこう言った。

「明日の朝、お迎えに上がります。それまで、二人でゆっくりと過ごして下さい」

私は更に目を丸くして執事である黒崎さんの方を見ると、彼は少し恥ずかしそうな顔をしながら、頬を指先で掻いている。

彼はヘッドセットを外すと、私のそれも外し『行きましょう』と言って白い歯を見せた。

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