(仮)執事物語
第5章 Frost Flower〔葛城〕
「フロスト・フラワーが見たい!!」
紫苑お嬢様のそんな願いを叶えるべく、私・葛城慎吾はお嬢様と共に北海道は阿寒湖の近くの別荘にやって参りました。
フロスト・フラワーとは、その名の通り『霜で出来た花』で、別称は"氷の華"や"冬の華"とも言われております。更には"天使の羽根"等とも呼ばれ、それがどれだけ美しいのかが伺えます。
湖に張った氷から昇華した水蒸気が、湖面の氷や石などの表面に付着した氷の結晶が発達するにつれ、花の様に見える事から、その名前が付きました。
この花が咲く条件には、気温がマイナス15℃前後で、風の吹かない早朝に見る事が出来るそうです。
そんな厳しい条件でしか見られないと言うのに、紫苑お嬢様ときたら……。
「紫苑お嬢様!! お起き下さい! フロスト・フラワーを見に行くのではないですか!?」
そう言って何度も起こしているのですが、一向に目を覚まそうとされません。元々、朝の弱いお嬢様。
毎朝、起こして差し上げるのにも苦労をしておりますのに、更に早い時間となると、かなり手を焼きます。
「紫苑お嬢様!」
私はお嬢様を揺さぶり、何とか起きて頂こうと努力を致しますが、中々起きて下さいません。
こうなったら、最後の手段を使うしかありませんね!
私はそっとお嬢様のベッドに潜り込み、お嬢様のお身体にそっと寄り添うと、紫苑お嬢様のお身体を羽交い絞めに致します。