(仮)執事物語
第6章 聖夜に誓いのくちづけを〔高月+葛城〕
葛城はベッドから降りると、ベッド脇のスツールに、無造作に置かれたシャツに腕を通した。
それをベッドの上から気怠そうに眺めている、この邸のお嬢様である"ゆき"。
彼は身支度を整えると、換気の為に窓を開け放つ。暖められた部屋に12月の冷たい外気が流れ込んで来た。
情事の後の火照った身体には心地好いが、それは直ぐに彼女の熱を冷ました。
「寒いわ……」
そう言うと彼女は羽毛の詰まった上掛けを掻き集めて包まる。
「すみません。貴女の旦那様は鼻が利くので、気付かれたら不味いかと思いまして……」
葛城がそう言って彼女を振り返ると、ゆきは肩を竦めた。
彼女の伴侶──高月は、葛城の元部下である。要するに自分は浮気相手と言う訳だ。
使用人と言う者は、主人の意向に沿う様に努めねばならない。主人が求めれば答えるのが使用人の務め。
しかし、"務め"だけで主人を抱いているわけでもない。彼女との官能のひと時は、彼の中で特別な時間でもあった。
彼女と高月の結婚は、この邸の主である、ゆきの祖父が決めたものだった。
高月はある企業の会長の息子で、彼女の伴侶として申し分のないステータスの持ち主であったが為に、その縁談は進められたのだった。
自分とは恋仲のゆきであったが、彼女は祖父の決めた事にあっさりと従った。そして、彼女の結婚後も身体の関係は続いている。
求められれば応える。それが今の葛城に出来る事だった。