(仮)執事物語
第6章 聖夜に誓いのくちづけを〔高月+葛城〕
葛城が部屋を出て行った後、ゆきはベッドから降りて、シャワーを浴びに浴室へと向かう。
情事の名残は消しておかねばならない。高月は嫉妬深い。彼は彼女と結婚後、"彼女の執事"を辞め、会社経営に携わっている。
しかし、彼女の執事を辞めた今でも、彼は時々ゆきのことを『ゆきお嬢様』と呼ぶ。彼が彼女をそう呼ぶ時は、必ずと言っていい程、彼はベッドの中で彼女を執拗に攻める。
それは彼女にとって嫌な事ではない。寧ろ"愛されている"と悦びを感じるのだ。だから彼女は、情事の名残を完全に消す事はしない。
『他に男が居るかも知れない』と言う雰囲気をさりげなく醸し出す。そうすれば高月は嫉妬に狂い、彼女を激しく抱く。
そして葛城に対しては、高月がどれだけ激しく求めたのかを身体に残された痕跡で見せ、彼の嫉妬心を煽る。自分でも歪んでいると自覚はしているが、彼女はそれを楽しんでいた。
ゆきはシャワーを浴びた後、間もなく帰ってくる高月の為に化粧を施す。仕事から疲れて帰って来る夫を綺麗な姿で迎え労いたい。彼女なりの夫に対する気遣いであった。
ドレッサーの上に置いておいたスマートフォンが震える。高月からの"帰るメール"だ。これを受信した5分後には、彼は邸に到着する。
彼女はさっと自分の姿を確認すると、夫を迎え入れる為に広間に下りた。
「雅哉さん。お帰りなさい」
階段を駆け下りながら、そう言うとゆきは高月の胸へと飛び込む。フットマンに鞄を預けた高月は、腕を広げて彼女を受け止めると、『ただいま』と言って彼女の蟀谷に口付けた。