(仮)執事物語
第8章 カウントダウンは甘く蕩けて〔葛城〕
「葛城……ここって……?」
私がそう言って振り返ると、彼はニコニコと笑いながら、出迎えてくれた男性に荷物を渡した。
「温泉でのんびりしたいと仰っておられたでしょう? 別荘でも良かったのですが、偶にはこういう場所は如何かと思いまして……」
そう言いながら彼は、私の手を握り腰に手を回すと、先を行く男性の後に続くよう、私を促し歩き始める。
玉砂利の敷かれた道を点灯しているフットライトを頼りに歩いて行くと、木々の間から古めかしい家の灯りが見え隠れしている。
砂利を踏締める音が小気味いい。
「ここは古民家を改装して、それぞれを離れの客室として使っとるんですわ」
法被を着た男性が、振り返ると人懐こい笑みを浮かべて、そう説明してくれる。
「お二人さんのお部屋は、こちらになりますわ」
そう言って男性が、玄関の引き戸を開け、中へと入って行く。私達もそれに倣い中へ入ると、古い"和"の雰囲気と"洋"のアンティーク家具が見事に調和した、素敵なお部屋だった。
「わぁ! 素敵なお部屋!!」
私が思わず感嘆の声を上げると、男性はニコリと嬉しそうに笑う。
「そうでしょう? この部屋は、この宿でも一番の客室なんですわ」
自慢の宿なのだろう。彼は胸を張って私達にそう言った。