(仮)執事物語
第8章 カウントダウンは甘く蕩けて〔葛城〕
私達が靴を脱いで上がると、男性はそれを下駄箱に仕舞い、代わりに下駄を出してくれる。そして、彼も靴を脱いで上がると、中を案内してくれた。
私達の滞在する客室は二階建てになっており、玄関を入って直ぐにあるリビングは上階まで吹き抜けている。その奥には囲炉裏があり、畳敷の部屋には掘り炬燵が設えてあった。
寝室は二階で、ダブルベッドが二つ並んでおり、浴室は床から天井まで開いた窓から庭を愉しむ事が出来る作りになっていた。
湯舟は檜。残念ながら、露天風呂は無いらしいが、それでも開放感のある浴室だった。
私達があれこれと自由に室内を見て回っている間に、いつの間にか和服を着た女性が二人、リビングに来ていてお茶を淹れてくれていた。
「本日は、遠いところを良くいらして下さいました。わたくし、女将でございます」
そう言って品の良い付け下げを着た風格のある女性が、指を揃えて頭を下げる。
「こちらが番頭の田所、そしてこちらが、お部屋を担当させて頂きます、仲居の花咲と申します」
女将が両隣に控えている、男性と女性を私達に紹介すると、二人も女将と同じ様に頭を下げた。
葛城は宿帳に記入をすると、それを持って三人はフロントのある本館へと戻って行く。
リビングの壁に掛けられている、アンティークの柱時計を見ると、時刻は午後の七時を回ったところだ。