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あなたの色に染められて

第18章 Re:Start




『璃子ちゃーん。ボールお願いしまーす』

『はーい』

ボールの入ったカゴを抱えて ホームまで走る。で 空いたカゴを回収。

で 次は冷たい麦茶と温かいお茶の用意っと。

2月の終わり。木枯らし吹く寒空の下。大人になった野球少年達は今日も白球を追いかけて汗をキラキラさせちゃって。

そんな私も走り回っているもんだからうっすら汗ばんで。冷たい麦茶がまだまだ欲しくなる。

温かいお茶を飲むのは応援に来ている家族と 反対側のベンチで見学してる遥香さんと…京介さんぐらい。

精密検査も無事に終えてあれから2.3日で退院した京介さん。

でも 時々 眉間にシワを寄せてこめかみを押さえている仕草が目に入る。頭痛にはまだ悩まされてる様子。大丈夫かな。ちょっと心配


その週の土曜日から グラウンドに顔を出して。みんなの邪魔になるからと反対側のベンチでバットやらグローブを取っ替え引っ替え持ってウズウズしてる様子

たまに座ったままキャッチボールして遊んでもらって

でも キャッチボールしてもらうとさらに心が疼くんだろうな。ポケットに手を入れて長い脚を投げ出して 帽子を深く被る。きっと口を尖らせて

その横にはずーっとスマホをいじってる例の彼女。野球なんてきっと興味無さげ

でもその彼女 ベンチに入るときと帰るときは大活躍する。まだ少し足を気にしている彼の腕にピッタリと両腕を絡ませて。チラチラと私に視線送って。もう 支えなんかなくたって歩けるはずなのに。



あれから 京介さんとは話していない。通りすぎるときに挨拶をする程度で。

もう1ヶ月。なんの進展もなかった。進展があったのは遥香さんの方。随分とご機嫌だもんね。



『冷たっ。……うぁ。』

さすがにこの寒空での洗い物はかなりキツい。体が冷えると心まで寂しくなるもんで

あ~ぁ。お話ししたいなぁ。
でも いっつも遥香さんがいて 近寄れる雰囲気でもないし。敵意むき出しだし。

これじゃ 思い出してもらうのなんて無理じゃん。

もう1ヶ月。私なにやってんだろ。

ホント 冷たい。足踏みして少しでも暖をとってみるか

ボスッ!
『うわっ。…なにぃ??』

頭に何か乗せられたのと同時に私の目の前が真っ暗になる。

『ホント ウケる。璃子ちゃんって』

……うそ

濡れた手をシンクに残してゆっくりと振り返った。

……ウソでしょ

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