あなたの色に染められて
第22章 揺れる思い
『…だっせぇ…』
スマホを両手に握りしめ 空を見上げた。
『…フッ…すっげぇだっせぇ…』
吐く息は白く 夜空から降り注ぐ雨にかき消される
話の途中 店の外に出た。感情が押さえられなかったって言うのもあったけど
長谷川さんが俺の横で涙を流してたから
『俺にはすっげぇカッコ良く見えたけど』
振り向くと佑樹が腕を組んでドアに凭れかかっていた。
『…フッ 見てんじゃねぇよ…』
『…見せろよ。俺が璃子ちゃんに振られるとこも お前見てんだから。』
『…うるせぇよ』
『なんだよ。…振られたくせに』
『 お前もだろ』
お互い目を合わせて鼻をならし 佑樹はタバコを差し出した。
『どうぞ。』
『サンキュ。』
滅多に吸わないタバコを1本もらい火をつける。
フゥーと長く空に向かって煙を吐く。
久しぶりに聴いた璃子の声は 俺の心の隙間を一瞬で埋めた。
言葉を交わせたら 色々伝えたいって思っていたけど 璃子の名前を声にのせるとそれ以外はなにもいらなかった。
名前を呼ぶ度にキスをしているような感覚だった。
“会話をしてるみたい”
璃子はキスをする度によく言ってたっけ
『…璃子ちゃんはいいオンナだったよな。』
『あぁ。すっげぇ いいオンナだった。』
二人して空を見上げて 璃子を想う。
『…諦められる?』
『…諦めなきゃダメだろ。』
『…そか。』
耳に残る璃子の声。
最後に言ってくれた俺の名前。拒んでいるようでそれ以上に俺を求めてたように想う
店先にある灰皿にタバコを押し付け 佑樹を指差し
『…って。美紀ちゃんには言っといて。』
『…フッ…バ~カ』
『やっぱ 璃子は俺のモンだしな。』
このときの佑樹の顔は絶対に忘れないと思う。
気持ち悪いほど歯を見せニッコリと笑い 俺の背中を何度もバシッバシッと叩きながら
『バカ!痛ぇっつうの!』
『遅ぇんだよ!バカ京介!!』
『だから。痛ぇんだよ!』
璃子の心はまだ完璧にアイツに染まっていない。
俺がオレ色に染めたんだ。
俺はずっと待つよ。
何年たっても…
俺もはじめて心の底から惚れたオンナで…
愛しくて狂おしいほど惚れた最後のオンナだから…
『佑樹!呑みなおすぞ!』
『お前なんで振られてんのに元気なんだよ!』
諦めの悪い俺は 世界一格好悪いオトコだった。