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あなたの色に染められて

第22章 揺れる思い




「…璃子に名前呼ばれんの久しぶりだな。…もう一回呼んでよ。」

『……。』

「……なぁ…璃子。頼むよ。…呼んで。」

『……呼べないよ。 』

同じことを考えていたんだと思う。名前をただ呼びあうだけで その口調とか漏れる息とか たったそれだけでお互いの心が手に取るようにわかってしまう。

呼んでしまったらきっとすべてが崩れてしまう。

「……璃子…」

ねぇ。その震える声は私と同じ気持ちだね。

名前を呼ばれる度に心が苦しくなって伝えたい感情が沸き上がってくる。


「…璃子。いっぱいいっぱいごめんな。」

『……。』

「…璃子。いっぱいいっぱいありがとな。」

『……ううん…』

その声色は蓋をしていた私の胸の奥に突き刺さり 涙となり頬をつたう。

あんなに忘れようとしたのに…一瞬ですべての感情が元に戻り始める

だから声を聴きたくなかったのに…

『……お願い。もう…』

だって…だって…最後まで信じきれなくて私から手を離したのに…

これ以上聴いたら もう戻れなくなってしまう。

「……璃子。……愛してるよ」

『…お願いだから…言わないで…』

「……ごめんな。あの日わかってやれなくて…。やっと言ってくれたのにそれさえも気づけなくて…」

…覚えててくれたんだ。私の記憶を失った京介さんに伝えた言葉。

『……ううん。』

「…あの日の璃子みたいに目を見て言ってやれないけど」

瞼を閉じれば私の大好きな優しい目をした京介さんが写し出される

「俺にも言わせて」

『……イヤだよ…』

私は首を振り 瞼の裏からもあの笑顔を消し去ろうとする

無理なのはわかってる。…でも消し去りたかった…。

だって……その言葉をもう一度聴いてしまったら 私は……

「…世界中の誰よりも愛してるよ。…その意味を教えてくれたのは…璃子だよ。」

『……京介さ…』

この言葉に私のたくさんの気持ちが込められた。

それは今でも忘れられないほどの“愛してる”とその気持ちに応えることのできない“サヨナラ”で……

「……元気でな。…幸せになれよ。」

『……うん。』



京介さんの手を離したのも たっちゃんの手を掴んだのもこの私。

『……京介さん…』

枕に顔を埋めて 何度も名前を呼びながら声をあげて泣いた。


…ドアの向こうにたっちゃんがいたなんて知らなかった

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