あなたの色に染められて
第26章 Irreplaceable person
『ナイスバッティング!』
璃子を送り届けたあと球場に足を運んだ。
でも 今日の俺はグローブを手に取るわけでもバッドを握るわけでもなく ただスタンドに腰かけて 璃子のお気に入りの夕焼けを眺めていた。
『…らしくねぇな。』
『…長谷川さん…』
『幸乃から聞いたよ。…またアメリカ戻っちゃうだってな。』
缶コーヒーを俺に渡しながら横に腰かける。
『…仕事みたいで。しかもまたヤツと暮らすって…ハァ…マジでどうなってんだか。』
視線の先のオレンジは陽が落ちるのが早いせいかあっという間に色濃くなっていく。
『いつ戻ってくんの?』
『…1年か…2年。』
『…長いな。』
口にした缶コーヒーの温かさが俺の冷えた体に染みわたる。
『…明日 ここに連れてこいよ。ケンタも…奥さま軍団も璃子ちゃんに逢いたがってんだろ』
『…いいんですかね。ここで…』
どっかに連れて行ってやろうと思ってた。想い出作りじゃねえけど 今までしてやらなかった分っていうか。
『…それはわかんねぇけど…前みたいに普通にしてやれ。気張ったって格好つかねえだろ。』
『…話してみます。』
ガチャン
ナイターのライトが灯った。
『…っつうか。ちょっとキャッチボール付き合え。…マジ寒い。』
『ハイハイ。』
あの太陽が沈んだら璃子を迎えにいく。
たった4日間で俺は何をしてやれるのか…ただそれだけを考えていた。
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ホテルの入り口から いかにもな大きな紙袋を持って友人に手を振る璃子が俺の車をキョロキョロと探しながら歩いて出てきた。
ヒールを履いてきれいに着飾っても璃子はやっぱり璃子で。俺の車の目の前に立ち始めて気付いたりなんかして。
ドアを開け乗り込むと 少し酔ってるのかな。頬を紅く染めて
『…お待たせしました。』
『…楽しかった?』
『…はい!』
璃子は家に着くまで 結婚式の様子を楽しそうに話す。
『…それでね。旦那さんの同僚が こ~んなに短い丈のセーラー服着てね…』
『…ハイハイ。』
『…クルっと回るとパンツが見えちゃってね……うふふ。』
身振り手振りを加えてそれはそれは楽しそうに話す璃子。
俺としては久しぶりに見る コロコロ変わるこの表情が堪らなく可愛くて。
『…それでね…』
残りの4日 璃子のこの笑顔を絶やさないと心に決めた。