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あなたの色に染められて

第26章 Irreplaceable person



『はい…これ…』

『……え…私に?』

玄関の扉の前で京介さんが私の掌に鍵を落とした。

この鍵は記憶を無くした日に直也さんに託したもので

『…璃子の鍵だろ…早く開けて』

そう言って首を傾けて私にニッコリと微笑む京介さん

『…はい。』

この扉の前に立つまでも緊張していた。車の中でも 私ひとりがペラペラと喋っちゃって…

期待と不安で入り雑じる心の扉を開けるように鍵を開けた。

…カチャ

『ほら。早く入れって』

『…おじゃまします』

玄関からまっすぐに見える窓 その間にあるいつも食事をしていたローテーブル… 視線の真下にはいろんな方向を向いてる靴。

『…もう。』

靴を揃えてから 部屋に入ると 手前の洗面所に目が止まる。

『…京介さ~ん。 洗濯機回しますから野球の持ってきて下さ~い。』

コートも脱いでいない私だけど かごの中の洗濯物を色分けしながらもう動き出してる私。

『…後でいいのに。』

口を尖らして私の隣に立ち バックの中からウェアを出しはじめる。

『やらせてください…洗濯担当ですから……フフ。』

洗剤を入れて スイッチを押して 洗濯機を指差して

『…これでよし っと。』

その瞬間 後ろから抱きしめられた。

首筋に顔を埋めて動かない京介さん。優しく回された腕をそっと撫でた。

『…もう少しこのままでいて。』

『…はい…』

背中を伝って感じるぬくもり 聴こえる息づかい…そして 私から絡めたマメだらけの指先。

指先を絡めながら撫でていると 京介さんの腕に私の涙が零れた。

『…泣き虫璃子』

『…だって…』

…ずっと こうしたかったんだもん

京介さんはどこかのホテルをとって過ごそうと言ってくれたけど 私はやっぱりこの部屋がよかった。

“特権”っていうのかな。京介さんの部屋で京介さんと過ごす。それだけでいいんだから。

腕を解かれると首に手を回されて体の向きを変えられる。

後頭部に手を置かれるのと同時に唇を塞がれた。

私の上唇と下唇を交互にを食むようにキスを落とされる。

『……ん…』

角度を変えて何度も私を確かめる京介さんのキス。

ゆっくりと唇が離れると 額を合わせて私たちは いつまでここにいるのかって笑いあった。

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