あなたの色に染められて
第3章 二人で
…あ
お店を出ると自然と手を握られるから 私もその大きな手を握りかえした。
もう 拒んだりなんかしない。
二人で手を繋いで歩くのは今日が二回目なのにこの大きな手は私にとって居心地がよかった。
『今日もごちそうさまでした。この間も御馳走になっちゃったのに…』
見上げなければ端正な顔立ちが柔らかく微笑む。
その微笑みはずっと鍵が掛かったままの私の心の扉をゆっくりと開いていく。
『今度は私にご馳走させてくださいね。あんまり高いのは無理ですけど…』
気付けば私からご馳走させてくださいだなんて まるで誘ってるみたい。
『そんなこと女の子は気にしないの。』
そか…私と違って京介さんは女の人に慣れてるんだよね。
やっと開いた私の心の扉はその知らない女の人にヤキモチまで妬いていた。
*
電車を降りて私の最寄駅に着くとお喋りしてたのに急に黙りこんでしまう私たち。
それはたぶんお別れの時間が近づいてるから
家まで続く長い銀杏並木を手を引かれゆっくりと歩く。
たったそれだけなのにそれがとても心地よくて…
だからかな…
自然と伝えなきゃいけない想いが込み上げてきた。
『京介さんの手は固いんですね。』
『あー豆か…ゴメン痛かった? 』
繋いだ手を視線にいれて首を小さく横に振る。
『ううん 違うの…。』
お互いになんとなく途中にあった公園に足を向けるとさらに私は言葉を紡ぐ。
『なんだか私…この手にいろんなものをもらってる気がして…』
ゆっくり視線をあげて瞳を覗くと京介さんはクスリと微笑んで
『こんな豆だらけな手が璃子ちゃんに何をあげてる?』
『…なんですかねぇ…いっぱいなの…ウフフ…』
このとき知ったことがある。気持ちは胸に溢れてくるのに言葉にはなかなかならないこと。
視線をまた繋がれた手に戻すと
『なんだそれ。』
クスッと笑って ほんの少し繋いだ手に力をいれてくれる。
『なんて…言ったらいいかわからないんですけど…この手は離しちゃいけないんだって…もっと…もっと…少しでも長く繋いでいたいって。』
お酒の力を借りてるのかな。私ったら何を言い出してるんだろ
『…璃子ちゃん。』
京介さんはゆっくりと立ち止まると私に向き合った。
小さな噴水のある池には 月明かりに照らされた私たちが写っていた。