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あなたの色に染められて

第28章 離れていても




『京介先輩!お疲れさまでしたぁ!』

『ハイ…お疲れさん』

…チン…

長谷川先輩が席を外した隙に私はその席を透かさず陣取った。

『もう あの外野フライを捕っただけでもスゴいのに あのバックホーム!私 感動しちゃいました!』

『だろ』

優勝の立役者なのに 先輩はいつものようにクールに振る舞う。

そんな先輩と対照的に 興奮が今だ覚めない私は先輩の左腕を両手で掴み 一人舞い上がっていた。

『あの位置に守ってたのもスゴいですよね』

『おっ。萌はいい所に目をつけてるな』

でも いつもよりは上機嫌だった。だって優しく目を細め 私の話に乗ってきてくれる。

私は掴んだ腕を離さずにそのままぬくもりを感じて

…こんな腕なんだ…

初めて触れた先輩の体は 思っていたよりも ずっとしなやかで

ジョッキを持ち上げるときに少し筋肉が動くその感触がまた男性を感じさせた。

『先輩スゴく格好よかったです!』

『萌ちゃん 言うねぇ』

佑樹先輩は私を指差しニヤッとイタズラに笑うけど

『だって本当に格好よかったですもん!』

京介先輩の心に少しでも響いてほしくて もう一度言ってみたりして

だって今夜は無礼講!

いいよね…このぐらい言ったって…

先輩の顔をチラッと覗きながら 様子をうかがう私

その優しく微笑む瞳と私の瞳がぶつかったときだった

『萌は可愛いなぁ』

そう言って 優しく微笑み私の頭をポンポンと大きな手で叩いたから

…え…

私の心臓は尋常じゃないほど ドキドキと音を立てはじめて 顔はきっと真っ赤なリンゴのよう

本気にすんな私!…言葉の綾…お酒の席…

『ほら 京介!お前がそういうこと言うから萌ちゃんの固まっちゃったじゃん。』

『…ゆっ…佑樹先輩!…そんな…違いますから…!!』

…違くなかった…

だって あの夏の暑い日から半年 私は京介先輩だけを見続けてきたんだから

『でも…顔 真っ赤だよ』

『…ホントに…もうヤダ!京介先輩助けてくださいよぉ…』

『ハハハッ…大丈夫…萌は可愛い俺の後輩だよ』

たとえそれが社交辞令でもいいじゃない

『もう!…京介先輩まで…』

だって今 私は掴んだ先輩の左腕をバシっと叩ける距離にいて

『…痛ぇよ…バカ…』

遠くの彼女はこんなことできないでしょ?

遠距離してる彼女より近くの…って言うじゃない?

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