あなたの色に染められて
第30章 大切な人
萌ちゃんの走り去る足音を耳にした私たちはゆっくりと唇を離した。
『…んぅ…。』
『もうおしまい?』
『…ばか。』
私の心に少しづつ溜まっていったモヤモヤをすべて京介さんにぶちまけた私。
その心は背の高い京介さんの顔越しに見える蒼く澄んだ五月晴れと同じぐらい清々しかった。
『…ブス。』
私の濡れた頬を親指で拭いながら優しく目を細める。
『京介さんが悪いんじゃん。』
頬を被うこのマメだらけな大きな手が私にはやっぱり必要で…
結局惚れてるのは私の方なんだって思うと何だか悔しくてもう少し拗ねてみたりなんかして。
『…まだ許してませんけど…』
本当はもう 私だけを見てくれてるって充分にわかったのに
『…絶対に許しませんけどね。』
『ふ~ん。あんな濃厚なの俺としたのに?』
甘いキスひとつで心を持ってかれちゃったのに
『あっ…あんなキスぐらいで…私が許すとでも思ったんですか!?』
『じゃあ お次はどこにキスの雨を降らしましょうか?』
いつの間にかやっぱり立場は逆転していて 私の瞳を覗き込んでクスリと微笑む京介さんに敵うはずもなく。
『すぐそうやって…』
彼の腕に包まれながらぬくもりを感じた。
球場から歓声とため息がまた聞こえると長谷川さんが京介さんを探しに来て
『いつまでイチャイチャしてんだよ!京介 おまえの打順だぞ!』
京介さんは右手を上げてOKマークを作り
『俺が打ってランナー返したら許してよ。』
『いいですよ。打てたならの話ですけどね。』
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私の頭をポンポンと叩きながら笑顔で緊張感もなくバッターボックスに向かう京介さん。
2アウト ランナー2塁。京介さんがヒットを打てば俊足の佑樹さんならサヨナラのランナーになれる。
私は連れてこられたベンチで手を合わせて祈りその場面を見守った。
『京介!頼んだぞ!』
バッターボックスに立つ京介さんはピッチャーをグッと見据えて
一球目だった。
カキーン!!
放物線を描くように勢いよく空へ放たれたボールは 打った瞬間にベンチの人たちも腰を上げてホームに走りだすほどすぐにわかるような
『…うそ…』
『すげぇ!サヨナラホームランだ!!』
いつか見せてくれると約束したホームランだった。
『…バカ京介…。』
明日 旅立つ私に最高のプレゼントをくれた。