あなたの色に染められて
第30章 大切な人
『だいたい何なんですか?私のことがそんなに信用出来ないんですか?』
溢れる涙を乱暴に拭きながら コンコンと俺に言葉をぶつけてくる璃子に相槌さえも打てなかった。
あんな場面を見られて激しく動揺した俺は璃子の誤解を説くように とにかく必死に言葉を紡いだ。
でもそれが逆に不味かったらしい。次から次へと璃子の口から吐き出される言葉は俺への不満ばかりで
『彼女の私がいるのに黄色い声援浴びて 手なんか繋がれちゃって…ヤキモチ妬いてるのは私の方だってわかってます?』
でも その不満は俺の心にはかえって嬉しい話だったりもして
『いっつもそう。ニコッと笑ってマネージャーの頭ポンポンなんて叩いちゃってさ…だから勘違いされるんですよ。』
途中から不満なんだかヤキモチなんだかわからなくなっていて
『京介さんには黙ってましたけど 私だって意外と向こうでモテるんですよ!』
好き勝手にやらせてもらってた分…寂しい思いをさせていた分…璃子を苦しませていたんだなって
『今回だって お誕生日を一緒に過ごしたかったから有給だって目一杯使って来たのに…』
日焼けを気にして朝から一生懸命した化粧も涙で崩れて 叫び続けてる声は掠れてきて
『あ~ぁ。来なきゃよかった!』
口を尖らせて泣きながら思いの丈をぶつける璃子が堪らなく愛しくて
人を愛することってこういうことなんだなぁって。改めてそんなこと思って
こいつじゃなきゃ…璃子じゃなきゃダメなんだって…
『…京介の…バカ!』
振り上げた璃子の手首を掴み引き寄せて俺の胸に抱きしめた。
『離して!』
『…そんなに俺のこと好きなんだ…』
『キライ!大キライ!!』
『殴りたくなるほど好きなんだ…』
『大キライだって…言ってるじゃない!』
胸の中で暴れる璃子を強く抱きしめて思いの丈をぶつけた。
『好きだよ…璃子。』
『…ウソ!』
『…俺はお前がいないと生きていけない…。』
背中をさすりながら璃子の耳元で想いが届くように
『…俺もおまえを離さないよ。別れたいって言われても別れてやらねぇから。…璃子は俺のモノだろ。』
散々暴れた後 返事の代わりにやっと背に回してくれた細い腕を感じながら 唇を掬うようにキスを落とした。
しょっぱいのに甘いキス。
まだ後ろで俺たちを見ている萌に見せつけるような深いキスだった。