あなたの色に染められて
第31章 分岐点
『はい。お土産。』
『おっ “浄瑠璃”?』
深夜に日本から帰宅した私たち。
『たっちゃんも知ってる?』
たっちゃんは濃紺な色をした瓶をテーブルの上で回しながらラベルを確認して
『知ってるもなにも…ここのは人気があんのに限られた所でしか売ってねぇから。』
『…その酒蔵が実は…京介さんの実家なの。』
『マジで?…記憶喪失の彼の実家が酒蔵って…』
『記憶喪失って…一言余計です。』
酒蔵の息子だったことに驚いていた私だったけど 周りの話を聞けば聞くほどその酒蔵は有名なんだって思い知らされた。
***
あのホームランを打ったあの日 実家に送り届けてもらいながら京介さんも交えて家族で夕食を食べた。
京介さんが日本酒をパパに渡すと随分とご満悦で
『ここの酒蔵の息子サンなんてなぁ。』
『…パパは知ってたの?』
『はじめて家に来たときにお土産で持ってきてくれてそう言ってたじゃない。』
どうやらパパもママも知っていたようで…そう言えば遊びに来る度に日本酒を持ってきてたなって。
『森田酒造って言ったらなそりゃなぁ。』
酒蔵の名前だってちゃんと知ってて
『いや…小さな酒蔵で 数が作れないだけですから…』
そう。知らないのは私だけだったみたい。
***
時差の関係でまだ眠れない俺たちは荷物を整理して一息付くとなんとなくリビングに集まって土産の酒を嗜んだ。
『……ん!やっぱり旨いなぁ。で…挨拶に行ったってことはプロポーズでもされたか?』
『…されてませんよ。』
『…俺が独占してるもんな。』
『…ん?何ですか?』
『…いや なんでも。』
二人の関係を元に戻したときに「日本に帰っていいよ」なんて言ったのに なんだかんだ言って璃子を手離さない俺。
こいつとの居心地の良い生活を解消できないでいた。それはまだ璃子との生活に未練があるのも原因のひとつで。
『明日からまた仕事かぁ。』
『散々遊んだろ。しっかりしてくれよ。』
『…はーい。』
口を尖らせてチビチビとに酒を嗜む璃子。
今回の帰国で新しく決まったことがあった。
「ニューヨークの大学病院で働いてみませんか?」
今よりも大きな大学病院の常勤で。俺にはもったいないぐらいの話。もちろん二つ返事でOKした。
でも…問題は璃子だ。
…連れていきたい。さて どうするか…