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あなたの色に染められて

第31章 分岐点


「どうです?天気。」

『あ~。ダメ 聴こえる。』

外を見なくてもわかるほど窓に打ち突ける雨音。これじゃ 例え止んだとしてもグラウンドは使えない。

『マジ萎える…』

あれから1ヶ月。こいつの声で起きるのが日課になっていた。

「一日ずっと雨ですか?」

スマホの天気を確認すると

『あ~。雨 アメ あめ。ず~っと雨。』

「ありゃりゃ。」

『マジで雨嫌い。』

雨なのに起きたって仕方がない。布団に潜り目を瞑り 璃子の声色に耳を傾ける。

「もしも~し。また寝たでしょ?」

『だってつまんねぇんだもん。』

そうすればこいつが隣にいるような気がして

「進んでます?引っ越しの準備は。」

『やってる。あとはキッチンと洋服が少し残ってるぐらい。調味料がすげぇ面倒。』

「アハハ…。」

酒蔵の一年は7月から始まる。その日に向けて実家のそばにマンションを借りた。

今の部屋よりも一部屋多い2LDK。

少し大きめのベランダとL字型の対面キッチンを見て即決したこの部屋。どちらも璃子には話していないけどアイツ仕様。

「来週ですよね?」

『あぁ。明日から最後の引き継ぎで忙しくなるな。』

璃子がアメリカに行って2年。当初の予定では2~3年で帰ってくる話だった。

『なぁ。本当に夏にそっちに行っちゃダメ?』

「ダメです!…遊んでる暇なんかないですよ。早く一人前になってください。」

たった1ヶ月会えないだけで俺はもう璃子不足。

別れ際 俺はお前に頼んだよな。先生に“いつまで”だって聞いてくれって。

『まだ聞けねぇの?』

「…。」

『もう1ヶ月だぜ。何度も言って悪いけどさぁ…聞いてみろって。いつまでですか?って。』

璃子を困らせてしまうほどハッキリと求め始めた俺。

「ちゃんと聞きますから…。」

たぶん聞けない何かがあるってこと。それはまだ俺の記憶喪失が尾を引いてるってこと。

『…会いてぇよ…璃子。』

アメリカに行けたらアイツに直談判できたのにって。

「…私も…京介さん。」

瞼に浮かぶのはアイツの優しい笑顔。

『…ゴメン。言い過ぎた。』

「…ううん。」

『…実家行って兄貴と話してくるわ。』

「…はい。いってらっしゃい。」

だから雨は嫌いなんだ。野球が出来ないと余計なことまで考えてアイツを困らせてしまうから…

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